
ビジュアルアナリティクスと認知バイアス:データ可視化の注意点
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はじめに
皆さんは「認知バイアス」という言葉を聞いたことがありますか。
認知バイアスとは・・・
これまでの経験や先入観、感情などにより、物事の判断や認識に生じる「思考の偏り」や「思い込み」のこと「認知バイアス」という言葉は知っていても、具体的な種類まで知っている人は意外と少ないのではないでしょうか。認知バイアスは、私たちの日常の意思決定に大きな影響を与えています。
例えば、次のような経験はないでしょうか。
「欲しい商品について調べているとき、その商品を肯定する情報ばかりに目が向き、否定的な情報をあまり気にしなくなる」
これも認知バイアスの一種です。このように、バイアスは日常生活のさまざまな場面で生じています。 そしてこれは、データを可視化し意思決定を促す「ビジュアルアナリティクス」の世界においても例外ではありません。

ビジュアルアナリティクスでは、データをグラフやダッシュボードで可視化し、状況理解や意思決定につなげます。
しかし、同じデータであっても、見る人の思い込みや先入観によって解釈は大きく変わります。また、作り手側も「どのデータを使うか」「何を強調するか」「どのグラフで見せるか」によって、無意識のうちに伝わり方を操作してしまう危険性を持っています。
そのため、ビジュアルアナリティクスを作成する際には、見る人と作る人の両方に生じる認知バイアスを意識し、事実をできるだけ正確に伝える工夫が必要です。
今回は、ビジュアルアナリティクスに特に関連する4つのバイアスについて紹介します。
なぜ人間にはバイアスがあるのか
4つのバイアスを紹介する前に、そもそもなぜ人間にはバイアスがあるのでしょうか。
その背景には、人間の進化があります。
昔の人間は、危険な動物や自然環境の中で生き延びるために、限られた情報から素早く判断する必要がありました。
そこで役立ったのが、「ヒューリスティック」と呼ばれる思考の近道です。これは、すべてをじっくり考えるのではなく、経験や直感をもとに素早く判断する仕組みです。
この仕組みは、危険を避けたり、すぐに行動を決めたりするうえでは有効でした。
しかし現代では、多くの情報を冷静に読み解く場面が増えています。そのため、本来は役立つはずの思考の近道が、判断の偏りにつながることがあります。
つまり、どれだけ整ったグラフやダッシュボードを見ても、人は自分にとって理解しやすい情報や、すぐ判断できる情報を優先してしまうことがあります。
だからこそ、ビジュアルアナリティクスでは、認知バイアスの存在を理解したうえで可視化を行うことが大切です。
ビジュアルアナリティクスに関連する、4つのバイアス
①アンカリング(直感によるエラー)
人間は直感で素早く判断を下すとき、無意識のうちに合理的な判断から外れてしまうことがあります。特に、最初に見た情報がその後の判断に強く影響することがあります。これは「アンカリング」と呼ばれるバイアスです。

たとえば、買い物をしているときに、最初に「10万円」と表示された商品を見たとします。その後、「今なら2割引で8万円です」と言われると、10万円と比べて安く感じるかもしれません。
その「お得感」に引っ張られ、わざわざネットで相場を検索することなく買ってしまう人も多いのではないでしょうか。
しかし、実際には同じような商品の相場が6万円だった場合、8万円でも高い買い物になってしまいます。このように、最初に見た「10万円」という数字が基準となり、その後の判断に影響を与えてしまうことがあります。

ビジュアルアナリティクスにおいても、ダッシュボードの最上部に大きく表示された特定のKPI(売上など)だけを強調しすぎると、利用者の判断がその数値に引っ張られてしまう可能性があります。
そのため、平均値や中央値、過去データ(前年同期比など)との比較など、客観的な判断基準となる情報をあわせて提示することが重要です。
②確証バイアス(見たいものしか見ない)
情報が多すぎるとき、人間の脳は優先順位をつけ、特定の情報だけを拾い上げます。その一方で、他の情報は無意識に見落としてしまうことがあります。これは、情報のフィルターによって生じるバイアスです。

ある商品の購入を検討するとき、口コミを参考にすることがあります。
本来はさまざまな意見を見て判断したいところですが、「この商品は良さそう」と思っていると、良い口コミばかりに目が向き、悪い口コミを見落としがちです。
このように、自分の考えに合う情報ばかりを集めてしまい、都合の悪い情報を無意識に避けてしまうことを、確証バイアスといいます。

ビジュアルアナリティクスでも同様に、フィルターや絞り込み機能は便利ですが、使い方によっては重要な情報を見えなくしてしまう危険があります。
そのため、フィルターでデータを絞り込む場合でも、あえてフィルターの影響を受けない「全体像」のグラフを横に並べておくなどを行うことで、ユーザーは自分の関心領域にフォーカスしつつ、全体の中での位置づけや他の重要なデータを見落とさずに済みます。
③固定観念(過去の経験による思い込み)
ユーザーの文化的背景や過去の経験が、無意識のうちに分析の進め方や判断に影響することがあります。過去の経験は判断の助けになる一方で、新しい可能性を見落とす原因にもなります。

ある人が「中古車はすぐ壊れる」と思い込んでいるとします。
この思い込みがあると、車を探すときに新車ばかりを見たり、中古車を検索対象から外したりしてしまうかもしれません。
しかし実際には、中古車の中にも、整備履歴が明確で、走行距離が少なく、保証や第三者機関の検査が付いている優良な車もあります。
このような情報を分かりやすく表示できれば、ユーザーは「中古車は危険」という思い込みだけで判断せず、より客観的に比較できるようになります。

ビジュアルアナリティクスでも、利用者が過去の経験や固定観念に基づいてデータを見てしまうことがあります。そのため、データの背景や根拠を丁寧に示し、思い込みだけで判断しないよう支援することが大切です。
たとえば、「〇〇店の売上は常に悪い」という個人の感覚に対し、利益率や売上成長率を重ねて表示することで、より客観的な店舗の状況を把握できるようになります。個人の思い込みに対して、数字やグラフで多角的な事実をしっかりと明示することで、より正確な状況理解に繋がります。
④価値観による偏り
人によって、何を重視するかは異なります。同じデータを見ていても、重視する項目が違えば、最終的な判断も変わります。これは、ユーザーごとの価値観や優先順位によって生じるバイアスです。

たとえば、物件を選ぶときに、家賃を重視する人もいれば、駅からの近さを重視する人もいます。
同じ物件情報を見ていても、何を大切にするかによって、選ぶ物件は変わります。
このように、人によって重視するポイントが異なるため、同じ情報でも判断や選択が変わってしまう現象です。

ビジュアルアナリティクスでも、利用者は自分の重視する指標でデータを解釈しがちです。
たとえば、売上成長率と利益率を縦軸と横軸に配置した「散布図」を用いれば、どちらか一方の指標に偏らず、総合的にバランスの良い店舗を直感的に見つけることができます。
また、「売上は高いが、利益率が基準を下回っている店舗」を赤色で強調表示するなど、利用者が無意識に無視してしまいがちな指標にも自然と目が向くような工夫が有効です。
まとめ
認知バイアスは、私たちの日常生活だけでなく、ビジュアルアナリティクスにおいても大きな影響を与えます。データは客観的なものに見えますが、それを見る人間の判断には、直感、思い込み、経験、価値観が入り込みます。
そのため、ビジュアルアナリティクスを作成する際には、単に見やすいグラフを作るだけでは不十分です。利用者がどのようにデータを見て、どのように判断するのかを考えたうえで、バイアスを減らす設計を行うことが重要です。
具体的には、以下のような工夫が考えられます。
比較対象を明確に示す
フィルターで隠れた情報に気づける導線を作る
データの根拠や背景を提示する
ユーザーの視点に合わせつつ、別の視点(俯瞰的なデータなど)も用意する
人間の認知バイアスを完全になくすことは難しいかもしれません。
しかし、その存在を理解し、配慮したビジュアルアナリティクスを設計することで、データをより正確に、より公平に伝えることができます。
この記事はData Saberコミュニティ活動の一環として執筆しました
参考文献
・Ellis, G. (Ed.). (2018). Cognitive Biases in Visualizations. Springer Nature Switzerland AG. https://doi.org/10.1007/978-3-319-95831-6





