Adobe Summit 2026 Day2 キーノートレポート:「AIが操作するソフトウェア」への転換と、消費者中心主義の再定義

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Day1でエージェンティックAIの全体像と主要製品発表があったとすれば、Day2はそれを「どう使うか・なぜ使うか」に落とし込む1日でした。

P&G、DICK’S Sporting Goods、IBMなど実際の企業事例が相次いで登壇し、「理論」ではなく「実装後のリアル」が語られた時間でもありました。個人的に最も刺さったのは、「AIを使う問い」が変わりつつあるという指摘です。

「問いは『どこにAIを使うか』から『AIが私たちの何を使えるか』へ変わっている。」

この一言がDay2全体を象徴していました。


エージェンティックCXの「3軸」整理

Day2の最初のパートはAdobe自身による整理です。Adobe CX Enterpriseが実現するエージェンティックCXの基盤を、以下の3軸で構造化して提示しました。

  1. ブランド・ディスカバラビリティ(見つけられる力)
  2. カスタマー・エンゲージメント(つながり続ける力)
  3. コンテンツ・サプライチェーン(供給し続ける力)

これ、マーケターにとってはかなり便利な整理です。「AEMとGenStudio、どっちから手をつければいいの?」という議論になりがちな場面で、この3軸をKPI設計の出発点として使えます。

Day1が「これだけすごいことができるようになった」という発表寄りなら、Day2は「あなたの組織はどの軸から着手すべきか」という問いへの応答でした。


AIが「見つける」時代:LLM Optimizerの衝撃

ブランド・ディスカバラビリティの話で外せないのが、LLM Optimizerの成果事例です。

  • WK Kellogg:AI引用が350%増
  • Lovesac:AI引用が140%増

「AI引用」という指標、初めて聞く方も多いかもしれません。ChatGPTやPerplexityなどのLLMが検索・回答を生成する際に、そのブランドや製品が「引用元として参照された回数」です。

キーノートで語られた言葉がシンプルで強烈でした。

「AI可読性は新しいSEOだ。」

従来のSEOはGoogleのクローラーに対して最適化する行為でした。でも今、消費者の一部はGoogle検索の代わりにChatGPTやGeminiに聞いています。そして彼らが回答を出す際、どのブランドの情報を「引用するか」は、コンテンツの構造やメタデータの質に大きく依存します。

これはSEO担当者だけの話ではありません。コンテンツを作るすべてのマーケターが向き合うべき問いになっています。

エージェントトラフィックの可視化、カタログ・メタ情報のLLM最適化、オン/オフサイト双方の即時最適化——これらは「将来への投資」ではなく、今すぐ着手すべき施策として提示されていました。


AEM:真にエージェンティックなCMSへの進化

AEM(Adobe Experience Manager)については、「来訪の瞬間にコンテンツを生成する」という言葉が印象的でした。

「真の生成的ウェブサイトは、来訪の瞬間にコンテンツを生成する。」

従来のCMSは「事前に作ったコンテンツを出し分ける」ものでした。AEMが目指しているのは、それとは根本的に異なる世界です。需要スパイクを検知したら数分でページを生成し、ペルソナや地域に応じてコンテンツを自動最適化する。ガバナンスを保ちながら。

「ガバナンスを保ちながら」の部分が重要です。コンテンツが自動生成されるとき、ブランドトーン・法的レビュー・品質担保をどう担保するか、というのはDay1以来一貫して強調されているポイントです。実際の担当者が「じゃあ誰がチェックするの」という不安を持つのは当然で、それをシステムとして設計するのがAEMの新しい役割とも言えます。

そしてDay2のもう一つのAEMトピックがBrand Conciergeです。

「すべてのウェブサイトは会話型であるべきだ。」

会話型UIがWebサイトの標準になるとしたら、既存のサイト設計の前提がかなり変わります。ナビゲーション構造、導線設計、CVポイントの考え方——全部見直しが必要になるかもしれません。これはUXデザイナーにとっても、非常にラジカルな提言です。


成果事例の”リアル”:Adobe内製、IBM、Virgin

Day2で語られた事例の中で、特に印象的だったものをいくつか挙げます。

企業

取り組み

成果

Adobe(内製)

エージェンティック配信最適化

配信27%高速化、コスト45%削減

IBM

エージェント活用によるアクティベーション自動化

時間64%短縮

Virgin

GenStudioテンプレート活用

生産性40%向上

Virgin

社内ニュースルームのリニューアル

訪問者エンゲージメント5倍

Adobeが自社を「顧客ゼロ番」として内製事例を公開するのは毎年恒例ですが、今年の数字はインパクトがあります。配信コスト45%削減というのは、自社のマーケティングオペレーションに直接効くやつです。

IBMの「アクティベーション時間64%短縮」も、エンタープライズの現場でどれだけ地味に時間がかかっていたかを想像すると、この数字の重さがわかります。


コンテンツサプライチェーン:「ジャズ×オーケストラ」モデル

Day2で最もユニークな概念として語られたのが、「ジャズ×オーケストラ」型のコンテンツ管理でした。

デジタルファースト環境では、コンテンツの作り手が分散します。社員、代理店、インフルエンサー、ユーザー生成コンテンツ(UGC)——これらは「ジャズ」です。即興性があり、多様で、ブランドの画一的なコントロールが難しい。

でもグローバルブランドには「オーケストラ」の統一性も必要です。バラバラな音では演奏にならない。

キーノートの提示したアプローチは、「ルーズなブランドフレームワーク+安全ガードレール」です。厳格なルールではなく、緩やかな原則をAIが担保する。これはブランドチームの「管理への欲求」とクリエイターの「表現の自由」を両立させるための設計思想です。

「クリエイティブコントロールは、AI時代においてこれまで以上に重要だ。」

そして具体的な数字として示されたのが「毎日数百点規模のコンテンツ」という現実です。この規模になると人間の審査・承認フローは事実上破綻します。AIによるガードレール自動適用が「nice to have」ではなく「not a nice to have, it is a necessary」になるのは、数字を見れば自明です。

Gen Studioが果たす役割は、まさにここです。WorkfrontのプロジェクトコンテキストをAEMのアセット、Frame.ioの映像、Adobe Assetsと横断的に共有し、「サイロを壊す」というのは従来のアプリ統合の話ではなく、エージェントに文脈を渡すという設計の話です。

Brand IntelligenceもDay2で印象的でした。明文化されたブランドガイドラインと、長年の実務で蓄積された「非明文化の知(暗黙知)」を統合し、エージェントが「指示→組立→検証→予測」の4ステップでオンブランドなコンテンツを量産する仕組みです。

「Fireflyで生成→Brand Intelligenceで検証→AEMで展開→CJAで計測」というフローが完結するなら、これはマーケティングオペレーションの設計を根本から変える話です。


アーキテクチャの転換:「人間が操作するソフトウェア」から「AIが操作するソフトウェア」へ

Day2で最も技術的に重要なテーマがこれです。

MCPなどのプロトコルで機能を細粒度化・API公開し、LLMが直接ツールの能力を呼び出す。つまりAEMのコンテンツ生成、Targetのパーソナライゼーション設定、Journey Optimizerのセグメント作成——これらをAIエージェントが横断して自動実行する世界です。

これ、マーケターには想像しにくい話かもしれないので少し噛み砕きます。

従来のソフトウェアは「人間がUIを操作する」前提で設計されています。ボタンがあって、フォームがあって、保存ボタンを押す。でもAIエージェントは画面を「見て操作する」のではなく、APIを呼び出して直接実行します。

これが実現するためには、ソフトウェアが「機能を細かくAPIとして公開している」必要があります。Adobeが今年強調したMCP対応は、その設計思想の表明です。

役割分担の再定義もキーノートで明確に示されました。

  • 人間の役割:目標設定、承認、ガバナンス
  • AIの役割:検知、設計、シミュレーション、実行(機械速度で)

これは「人間がAIを使う」ではなく、「人間がゴールを決め、AIが手段を実行する」という逆転です。

組織論的には、現場担当者が「さらに多くのツールを要求する」というDay2の指摘が興味深かったです。AIが仕事を奪うのではなく、現場が「もっとやれるはずだ」と感じてツールを求めるようになる——それがエージェンティックAI採用の実態だ、という観察は、実際の導入支援の現場感覚とも一致します。


P&G事例:「重力の中心を、内から外に移す」

Day2のゲストスピーカーで最も印象に残ったのはP&G(プロクター・アンド・ギャンブル)でした。

「重力の中心を内から外へ移すことが、組織に真の顧客志向をもたらす。」 ——Shelesh Tarikar氏

この言葉、重いです。多くの企業が「顧客中心主義」を標榜しながら、実際の意思決定は「社内の都合」で動いています。製品ロードマップ、キャンペーン設計、KPI設定——全部が内側から始まる。P&Gはそれを意図的に「外(生活者)から始まる」組織に変えてきた、という話です。

具体的な手法として印象的だったのが、一日単位の生活文脈観察です。ユーザーの自宅を訪問し、実際の生活の中で何に困っているかを観察する。「都度洗い」というニーズは、消費者にアンケートを取っても出てこなかった。生活の文脈の中で初めて見えた「未言語化ニーズ」だったそうです。

「製品とパッケージ自体がメディアとなり、体験を語る。」 ——Shelesh Tarikar氏

パッケージがメディアだ、というのはCX設計の観点から非常に示唆的です。ブランドの「体験」はデジタルのタッチポイントだけで完結しません。製品を手に取った瞬間、開封した瞬間——それ全体が体験設計の対象です。

成長マインドセットの話も刺さりました。P&Gはある事業を歴史的平均の約3倍のペースで成長させましたが、その背景には「5〜7倍成長は可能だ」という前提の共有があったそうです。「2倍を目指せ」ではなく「何倍が本当に可能か」という問い直しが出発点だった、という点は、組織論としても面白い。

科学領域の横断統合(化学・生物・物理・基材・デバイス)でTide(洗剤)の新バージョンや、ZEBO(新製品)を開発したという事例も、「技術の掛け算でコアプロダクトを進化させる」ことの現実的な路線を示していました。


DICK’S Sporting Goods:「小売」から「スポーツライフサイクル支援」へ

もう一つの印象的な事例がDICK’S Sporting Goodsです。

顧客を「消費者」ではなく「アスリート」として捉える——これはポジショニングの話にとどまらず、顧客との関係設計全体に影響します。

従来のスポーツ用品店は「買い物」が起点です。「何が欲しいですか?」から始まる。でもDICK’Sが目指しているのは「スポーツライフサイクル」の起点に立つことです。

フィッティング、コーチング、保険まで——スポーツ活動そのものを支援し続けることで、長期的な関係を築く。これは商品を「売る」関係から、体験を「ともにつくる」関係への転換です。

実店舗とデジタルのデータ連携による一貫したパーソナライゼーション、実店舗でのコミュニティイベントとデジタルの組み合わせ——「リアルとデジタルを使い分ける」ではなく「統合して差別化する」というアプローチは、純粋なECプレイヤーに対する実店舗の存在意義を明確にしています。


CMO×CTO:共同正面としての体験設計

Day2を通じて繰り返し強調されたのが、CMOとCTOの協業というテーマです。

GenStudioがWorkfront・AEM・Assets・Frame.ioのコンテキストを共有してサイロを解消する——というのは製品の話ですが、その前提にあるのは「マーケターとエンジニアが同じ言語で話す必要がある」という組織的な要請です。

エンドツーエンドの体験設計にAIを組み込もうとすると、CMOが描くCXジャーニーと、CTOが設計するデータ/インフラアーキテクチャが、同期していなければなりません。ツールがいくら優秀でも、組織の分断があれば機能しません。

「人間が先導し、エージェントが加速する。それが次世代のコンテンツサプライチェーンだ。」

この言葉は、CMO×CTOの協業体制があって初めて成り立つ話です。


Day2全体を振り返って

Day2のキーノートから私なりに整理した「今すぐやるべきこと」を最後に並べておきます。

ブランドの可視性

  • エージェントトラフィック・AI引用の計測を開始する
  • カタログ・メタ情報のLLM最適化に着手する
  • 「AI可読性」をSEO/コンテンツ戦略の評価軸に加える

コンテンツサプライチェーン

  • Brand Intelligenceへの暗黙知の移管を今から始める(入力品質がすべて)
  • ルーズなブランドフレームワーク+ガードレールで分散クリエイター環境を設計する
  • CMO-CTOのペアで四半期ごとのアーキテクチャレビューを制度化する

組織・アーキテクチャ

  • 「AIに何をさせるか」ではなく「人間は何を判断するか」から設計を始める
  • 機能の細粒度化とAPI公開(MCP対応)を技術ロードマップに入れる
  • 既存アプリの知能層をサービス化し、エージェンティック運用に前方移管する

消費者理解

  • ユーザーリサーチの手法に「一日単位の生活文脈観察」を加える
  • 成長目標の設定を「前年比○%増」ではなく「何倍が可能か」に問い直す

Day1が「できること」の宣言だとすれば、Day2は「何のためにやるか」の問いでした。P&Gが示した消費者中心主義の徹底、DICK’Sが示したスポーツライフサイクル起点の顧客関係——技術の話をしながら、最後に立ち戻るのは「生活者への深い理解」というシンプルな原則でした。

エージェンティックAIがどれだけ進化しても、そのインプットとなる「誰のために、何を、なぜ」という問いに正直に向き合えている組織が、結局は強いんだと思います。


この記事はAdobe Summit 2026 Day2 キーノートの内容をもとにまとめたものです。

原田 憲悟
原田 憲悟
エクスチュア株式会社 代表取締役。 2001年よりデータ分析に従事し、2005年からデジタルマーケティング領域に特化。Adobe Analytics歴20年超、GA4・Snowflake・Tableau・CDPの設計・実装に精通し、延べ200社以上のエンタープライズ企業のMarTech・データ基盤構築を支援。本ブログではこれらの実務経験に基づいた技術解説と知見を発信しています。

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